「村正、明日ちょっと付き合わないか?」
翌日に休日を控えた夜、響河が私の顔を覗き込みそう言った。いやにそわそわした様子なのが可笑しく、思わずふっと笑みを漏らす。
「デートの誘いか?」
「そんな所だ。最近オープンしたらしいマッサージ店があってな。たまたま招待券を手に入れたんだ。今週はデスクワーク続きで身体も凝り固まっているだろうと思って」
「中々良い案だな」
「だろ?軽く調べてみたが、結構評判良いみたいだ。期待するとしよう」
「ああ、楽しみにしている」
響河の言う通り、ここのところ資料の作成や整理に追われ、疲労も溜まっていた。それに、久々にゆっくりできるデートでもある。響河の気遣いに感謝しつつ、自然と浮き足立つ心を宥め、その日は眠りに就いた。
翌朝、響河が予約していた時間に合わせ、私達は連れ立って家を出た。電車で数駅の所にあるマッサージ店を目指す。外の為堂々と手を繋いだりできないのは残念だったが、時折響河の手が私の指先や背中に触れるのが心地良い。
目的地に着けば、オープンから間もないらしい清潔感のあるフロントに、開店祝いのこぢんまりした花輪がいくつか飾られていた。響河が予約名を告げると、ご一緒にどうぞと奥に通される。
「同じ部屋に行けるんだな」
「カップル向けとかでペアシートみたいなサービスしてるって言うから、それ予約したんだ。カーテンで仕切られた部屋で同時に施術受けられるんだと。結構楽しそうだろ?」
「ああ」
ロッカールームで施術衣に着替えて指定された部屋に入ると、中央をカーテンで区切られた個室にタオルの敷かれた簡易ベッドが置かれ、担当するらしいスタッフがそれぞれ出迎えてくれた。
「本日はご利用有難うございます。60分コース2名様で宜しいですね。どうぞごゆっくりお身体を癒されてください」
清潔感のある青年が深々と頭を下げ、ベッドに腰掛けるよう促された。響河も同じようにカーテンの向こう側へ消えていく。誰とでもすぐに打ち解けてしまう響河は早速スタッフと賑やかしく雑談を始めていた。確かに互いの声が聴こえるというのは安心感もあり、一緒に受けているということが実感できて良いかもしれない。スタッフに宜しくお願い致しますと改めて挨拶され、こちらも宜しくと頭を下げる。
「開始前に、本日特に気になる所はございますか?疲れが溜まっているように感じる場所ですとか……」
「そうだな、デスクワークが続いていて肩や首が凝っていると思う」
「承知致しました。それでは横になる前にまずはこのまま上半身を解していきましょうか」
スタッフが後ろへ回り、肩や首の周りを指圧していく。流石はプロと言った所か、じんわりとした絶妙な圧力が心地良く、思わずほうと溜息を吐く。
「人間の身体というのは不思議なもので、全身の筋肉と神経が思いもよらない所まで繋がっているんです。例えば肩にしても、手の平まで筋肉が繋がっていてこちらを解すと肩凝りが解消したりするんですよ。足裏マッサージなんかはそういったものの代表ですよね」
「なるほど」
そう言いながらスタッフは肩周りだけでなく腕や手の平、指先も揉み解し始めた。確かにびりびりとした感覚が首筋まで伝わり、繋がっているのを感じる。ものの数分で、かなり肩が軽くなったような気がする。これまであまりこういった経験がなかったため一人関心していると、カーテンの向こうからぐああ!と大仰な呻き声が聞こえてびくりと肩が跳ねる。
「っあ゛〜〜っこれ、ヤバ……ッひぃ!?」
「失礼致しました、お客様大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫……続けてくれ……」
擽ったいのかはたまた押されたツボが相当効くのか、響河が情けない声を上げており、思わず吹き出すと後ろのスタッフも耐え切れなかったようで小さく吹き出した。
「……連れが騒がしくて済まない」
「いえいえ、仕方ありません。お連れ様もだいぶお疲れだったのでしょう。……お客様も痛かったりしたら遠慮なさらずお申し付けくださいね」
「ああ、わかった」
「では続きを……失礼して少し肌に触れますね。この後オイルを使用する際は全て脱いで頂きますので、予めご了承ください」
頷くとスタッフは施術衣の合わせから手を差し入れる。冷たさにぴくりと震えそうになるが、それだけ血流が良くなって体温が上がっているのだろうと解釈する。
「先程のお話の続きですが、鎖骨や胸の周りも肩の筋肉に大きく関わっているんですよ。お客様、普段とても姿勢が良くありませんか?胴体の筋肉も疲労が見られますね」
「そうなのか。確かに仕事柄……」
喋る間にも、手は器用に動き続ける。胸の下あたりを手の平全体で包まれ、円を描くように撫でられる。少し擽ったくて身動ぎするが、手は円を描きながら徐々に上へと移動してくる。このまま敏感な場所へ触れてしまうのではないかと嫌な予感がしたが、寸前でぱっと手は離れていきほっと息を吐く。
「上半身はかなり解れましたので、オイルマッサージに移行していきます。施術衣を脱いで、横になって楽にしてください」
脱げば下はほぼ裸で、事前に渡されたペーパーショーツを身につけているのみだ。躊躇いがあったが脱がないわけにはいかない。言われた通り施術衣を脱ぎベッドに仰向けになると、下腹部にはタオルをかけられ少し安堵する。
「オイルを塗っていきますね。はじめは少し冷たく感じるかもしれませんが、温感なのですぐにポカポカしてきますよ」
間も無くひやりとしたオイルが肋のあたりに垂らされ、胴体へ万遍なく塗り込まれていく。心が安らぐような香りに身を任せ、思わず目を閉じる。オイルがまた追加され、ぬるぬると肌の上を滑るのを感じる。スタッフの言う通り、オイルは次第に温かくなってきた。
「では、引き続き上半身の筋肉を揉み解していきます。少し擽ったいかもしれませんが──」
そう言ってスタッフの手がまた胸の上を往き来した。今度はオイルの滑りを借りているためか先程よりも大胆な動きで、手の平をうねらせるようにして何度もそこを往復した。脇の下の方から鎖骨の方へ、また肋骨のあたりから上へ。そうして動くうちに今度こそ手の平が乳首の上をぬるりと滑り、肩が跳ねそうになるのを堪える。全体を解しているのだから仕方ない、と言い聞かせながらも、触れられたことで徐々に硬くなっていくそこに耳朶が熱くなるのを感じる。
「──……あの……、あんまりそこを、触られると……」
「ああ、失礼致しました。ここって結構神経やリンパが集中してて、効果が高いんですよ。ただ、やっぱり擽ったい方多いんですよね。難しければ次に移ろうと思いますが……如何なさいます?」
「……いや……効果が高いと言うのなら……」
「、…わかりました」
理由があるのなら、と承諾すると、スタッフは手の平に更にオイルを追加し、胸の上を滑らせた。今度は明確な意図を持って、突起の先端を指でくにくにと押し潰される。すっかり立ち上がってしまったそこを二本の指で挟まれ、ぬるぬると捻られるとびりびりと電流のような感覚が背骨を伝い、腰が戦慄いた。思わず鼻から抜けるような声が僅かに漏れてしまい、慌てて手の平で口元を押さえた。
「ん、ん……ふ、…っ」
スタッフの手はまた胸全体を揉み、乳首を摘み上げるという一連の動作を何度も繰り返した。温感のオイルのせいなのかじんじんと乳首の先まで熱く、次第に息が浅くなってくる。こんなに身体全体に影響が出るものなのかと不審に思うが、先程のマッサージでかなり身体が楽になったのも事実だ。任せるほかないだろうと、震えそうになる身体を叱咤する。じくじくと下腹部まで温まってくる感覚を必死に意識の外へ追いやろうとするが、手の動きは激しさを増しこりこりになった両の突起を指で弾き出した。
「ぁ、ッん、ん、ゃ……!」
思わず首をぶんぶんと振ると、失礼、痛かったですねと言いまたすぐに手はあっさりと離れていく。追加オイルの準備をしている間に上がってしまった息を何とか整えようとする。──こういう店では、これが普通なのだろうか?一度そう思ってしまうとモヤモヤしたものが蟠り、心臓を叩かれる。
「だいぶ身体が温まってきたでしょう。続いて下半身もやっていきますので、うつ伏せになってください」
助かった、と内心思った。じんじんと熱を孕む乳首は外気に晒されているだけでも疼くようだった。促されるままうつ伏せになると、背中にもオイルを塗される。はじめは背中の上部にオイルを伸ばされ、再度肩や首を揉まれれば、姿勢が違うせいもあるのか先程とはまた違う気持ち良さに包まれる。先刻過ぎった不安はやはり杞憂だったのだと思い直す。カーテンの向こうから談笑が聴こえる。あちらも楽しめているに違いない。
またオイルが垂らされ、今度は腰のあたりを揉むのだろうと考える。予想通り背中の下側と腰回りに塗られていくが、突然肌が外気に晒されるひやりとした感覚が齎され、思わず首を回して振り返る。やはりタオルが取り払われ、Tバック型の心許ないペーパーショーツから尻朶が晒されていた。声を上げる間も無くそこにもオイルを垂らされ、びくんと爪先が跳ねる。
「このあたりも腰痛の改善や予防に重要なんですよ。……しっかり解していきましょうね?」
にこやかで愛想良く思えた笑みが急に酷薄な薄ら笑いのように感じられ、背筋が粟立つ感覚がする。ぎゅうと尻朶を持ち上げられ、粘膜が冷たい空気に触れてぶるりと震える。やはりこの施術はおかしい。こんなことはあり得ない。やめさせなければ。そう思うのに、身体に力が入らない。晒された粘膜に直にオイルを垂らされた途端、どくどくと鼓動が早まり息は犬のように更に浅くなった。
「ぁ……嫌、だ……待っ……!」
「効果が高い施術は受けたいと、先程仰いましたよね? 続けさせて頂きます。大丈夫、抵抗があるのは初めのうちだけですよ」
「ッひ……!」
ショーツの紐をずらされ、ぬるぬるとオイルを纏った指が尻の割れ目を往復する。窄まった肛門を探し当てるとそこの上だけを確かめるように何度も往復した。固く閉ざされたそこをノックするように指先で叩かれれば、オイルのせいで表面が指に吸い付きこれではまるで強請っているかのようだ。もう片方の手で腰骨のあたりをぐっと掴まれると、ずりずりとひとりでに腰が震え尻を持ち上げるような格好になってしまう。あまりの羞恥に、声が出ないよう唇を噛み締めることしかできない。
徐々に柔らかさを持ってきたそこにつぷりと爪の先が埋められ、全身が粟立つ。指の第一関節程の浅い所をつぷつぷと抜き差しされれば、教え込まれた快楽を嫌でも思い出してしまう。両手で口を押さえてふうふうと鼻で呼吸し、早く時間が過ぎることを願うほかない。──開始前に何と言っていた? 60分? まだ半分も過ぎていないのではないか? いつまで耐えていれば良いのか?──何の為に?……
指は侵入するたび徐々に深くまで押し入り、遂には指の根元まで埋められてしまう。それが引き抜かれる時、中で何かを探るようにぐるりと回される。指先が一点を掠めたとき、びくんと肩を跳ねさせてしまい、血の気が引く思いがした。一瞬動きを止めた指に嫌な予感がしたが、指はそのまま出ていき眉を開く。
「オイル足しますね」
「……っ、」
息を吐いたのも束の間、冷静に言い放たれた言葉と同時に、指にオイルを垂らすのが見える。さっきよりも質量を増やしそのまま再び後孔をこじ開けられる──今度は指が二本になっている。指は先程探し当てた一点に迷いなく行き着き、僅かに膨らんだそこをぐにぐにと揉んだ。まるでオイルを直に塗り込めるような動作に腰が戦慄き、腹の奥が燃えるように熱くなる。執拗にそこを弄る指をきゅうと締め付けてしまい、羞恥と屈辱で涙が滲む。それでも指は止まらず、口を押さえる手の隙間から熱い吐息が漏れてしまう。
「お客様、ひょっとして慣れてらっしゃいます?だいぶ効いてきているようですね」
「、っは、ぁ、あ……!ん、んぅ……ッ!」
「そんなに声を我慢しなくても良いですよ。我慢は身体に毒ですから。恥ずかしいお気持ちはわかりますが、お連れ様も先程あんなに声を上げておられましたし……」
「……っ、あ、…ッ……、!」
声を。声を出したら、響河にも聴こえてしまう。いや、もう聴こえているのかもしれない。先程の響河の声はあんなにはっきりと聴こえた。薄いカーテン一枚隔てた向こうにいる響河は、またスタッフと会話をしているだろうか。そうでなければ──
すぐ近くにいる筈の響河の存在を意識させられた途端、心臓がどくどくと波打ち、身体の奥底に刻み込まれている感覚をずるりと無理矢理引き出されるような思いがした。響河の声。息遣い。指の感触。触り方。皮膚の温度。その全てが、今は、違う。──ちがう、はずだ。思い出すにつれ頭は重く冷えていくのに、それを嘲笑うかのように身体は容赦ない熱に貪られていく。
「ッん、あ、あ……!」
「随分熱くなってますね……すっかり中まで解れてしまいましたよ」
「──〜〜ッ!……」
ぐり、と前立腺を二本の指で挟まれ、そのまま左右に揺さぶられる。脳髄を揺すられるような感覚に、爪先が痙攣する。容赦なく与えられる暴力的なまでの快楽に、頭が真っ白になる。無意識に腰が震え、敏感になっていた乳首がずりりとベッドに擦れて更なる刺激を生む。じくじくと全身を熱に溶かされ、口を覆うのも忘れて舌を突き出せば、甲高い嬌声が上がった。
「ひ、あ……ッ! んぁあッ!、はぁっ……」
「、村正ー? お前もヤバいツボ押されたか?」
間延びした響河の声に名前を呼ばれる。しかしそれだけで決壊寸前だった脳がどろりと溶け、触れられている粘膜が熱さに震えた。切なさにきゅんきゅんと中が収縮し、形振り構わず彼の名を呼んだ。
「や、ぁ、あ……ッこ、うが、……こうがっ、あ……!!」
「……村正?」
一瞬低い声が呟かれ、カーテンの向こうからガタガタという物音がするのを意識の端で辛うじて捉えた。
「お客様!?まだコースの途中で……」
「村正!!」
カーテンが引き千切らんばかりの勢いで開けられ、顔面蒼白の響河が立っているのがぼやけた視界に映る。寸前に指は抜かれていたが、身体がひとりでにがくがくと痙攣し、肌が擦れる場所全てが快楽に変わり身体を跳ねさせる。オイルと汗と涙でどろどろになっていた私はさぞ情け無い顔をしていただろう。
「……どういうことだ」
「、ッヒ……」
響河が私の背後にいたスタッフを射殺さんばかりに睨むと、彼は肩を跳ねさせ縮み上がった。
「……こ、これはですね、カップルを盛り上げるための当店独自の特別サービスでして……」
「ふーん?」
しどろもどろになりながらも口調と表情を崩さないスタッフは天晴れとしか言いようがない。しかし響河に興味なさげな声であしらわれ、威圧感にとうとう閉口した。
「頼んでもないサービスはどうでも良いけど……それはそれとして、お前ら──」
響河はそう言ってつかつかとスタッフに歩み寄り、胸倉をがしりと掴む。
「──ヒトのもんに手ェ出したらどうなるか、解ってんだよな?」
スタッフは手を離されるとそのまま重力に忠実に崩れ落ち尻餅をついた。響河は近くにあったタオルを掴み、私に被せるとそのまま抱き抱えた。
「帰るぞ、村正」
***
「相手が悪かったな」
数十分後、未だまともに足腰の立たない私を支えるように歩きながら、響河は憤慨して言い放った。
「あの野郎共、ウチの威信に懸けて三日以内に潰してやる」
「少し大袈裟じゃないか……」
「そんなわけあるか、詐欺だぞ詐欺」
息巻く響河に、嬉しさと情けなさが入り混じったようなむず痒さを抱きながら苦笑する。脚を動かすたび、まだ身体の芯が熱を持ったような感じがして、ふるりと息を吐き出してしまう。
「……大丈夫か?村正」
「、いや……あのオイルにどうやら、何か入っていたみたいで……」
そう言いながら響河の腕に縋り付くと、触れている場所から先程とはまた違う熱がじんわりと滲んでくる。ずくずくとゆっくり炙られるような感覚が耐え難く、思わず助けを求めるように響河を見上げる。頭も、頬も目玉も、全てが熱い。自分がどんな表情をしているか想像したくもないが、響河は私と視線を合わせるとこくりと喉仏を上下させた。
「……あー……、とりあえず何処かでちょっと、休憩するか」
***
近くに適当なラブホテルを探し、響河と私は部屋に入るなり待ち切れないように唇を合わせた。先程まで無理矢理高められていた身体は敏感に熱を拾い、唇を貪り合っているだけでひくひくと腰が跳ねてしまう。あまりにも敏感になっている自分の身体に戸惑いが隠せず、薄らと恐怖のようなものすら感じて思わず響河の胸板を掌で押す。しかしそれを許さないというように後頭部を押さえられ、更に深く口付けられる。熱い舌で咥内の粘膜を撫でられるたびに跳ねる腰を宥めるように響河の掌がさする。既に茹だりきった私の脳はそれすら新しい刺激として受け取った。
「ん、ん……ぁ、ふ……っ…」
同じ快楽という信号なのに、響河に齎されているというだけでこんなにも違う。暴力的な熱ではなく、腹の奥底からひとりでに湧き上がってくるような。キスをして少し触れ合っただけなのに、あっという間に蕩けてしまう。
ふと、鼻腔を掠める香りに違和感を覚え、ふわふわしていた思考が一気に現実へ引き戻される。響河も同じだったようで、顔を離されると僅かに眉を顰めている。──先程塗されたオイルの香りだ。その香りが紛れもなく自分からするのだと自覚した瞬間、あの時感じた嫌悪感やぞわりとした恐怖をありありと思い出す。熱のせいではない、ふるりと肩を震わせた私を抱き寄せ、響河はシャワー浴びよう、と提案した。
二人で浴室に入り念入りに身体を洗うその間も、私の身体は過敏に快楽を拾い上げ続けていた。自分でやるという私の言葉を聞かず、響河は私の身体を気の済むまで洗った。柔らかなスポンジや響河の掌が肌の上を往き来すると、もうすっかり身体中が熱を持ってしまう。
どうにか泡を全てシャワーで洗い流すと、身体を拭くのもそこそこに響河は私を抱きかかえベットに雪崩れ込んだ。浅く短い呼吸を繰り返す私の上に覆い被さると、視線を合わせまた唇を落とす。一頻り互いの唇を味わうと、響河はそのまま唇を首へ、鎖骨へとずらしていった。普段であればこそばゆさと心地良さが半々くらいだが、今の私はそれ以上の刺激を受け取り、鼻から声が抜けた。
「……村正、あいつどこを触ってきたんだ」
不意に響河が唇を離し、口を開く。なるべくなら思い出したくなかったが、響河の真剣な面持ちにゆっくりと話始める。
「……はじめは普通に、肩や腕を揉んでいたんだ……でも、そのうち胸を、触り始めて……」
話す間も、響河はまた肌の上に唇を落とす。更に下へずれていき、胸の上に舌を這わせる。
「揉まれたのか?」
「ん、ぁ……だけじゃ、なく……乳首も…っ、あ……!」
そう答えると響河は未だ赤く腫れた乳首を口に含む。暖かい粘膜に包まれ、ぬるぬると舌で撫でられれば、至極優しい触れ方にもかかわらずびくびくと背筋が軋んだ。ぽってりと膨らんだ乳輪をまるくなぞり、乳首の先端を舌先で抉り、硬くなったところを唇で挟み扱き上げる。いつもと同じ動きで愛撫されると、今どれだけ敏感になっているのかまざまざと思い知らされる。
「あ、ぁ……こうが、っ……今、敏感すぎて、もう……ッひ、ぁ……!」
「大丈夫だから。……触られたの、両方だよな?」
「ん、……ぁ、あ、んぅ…っ!」
響河はもう片方の乳首も同じように口に含んで愛撫する。びりびりと注がれ続ける快感に、私は目を閉じて耐えるしかない。
「……それで、その後は?」
「…っ、ぅ、うつ伏せにさせられて、……うしろ、を、ゆびで……っ」
響河の表情が僅かに険しくなる。そのまま腹の上を唇でなぞりながら下りていく。頭を擡げ涎を垂らし始めている陰茎を掠め、ひくりとそこが跳ねるが愛撫されることはなく、更に下へ。
「こ、うが…、なに、を、……」
「ちゃんと全部綺麗にしないとな」
「…ぅ、あ……!」
両膝の裏をぐっと掴まれ、腰が浮くまで上へ持ち上げられる。腹を折り畳まれ息苦しさに息を詰めるが、目の前にひくひくと跳ねる自らの陰茎を見せつけられ頬が一気に熱くなる。それだけではない。先程弄られて腫れ上がった後孔は、響河の目の前に晒されている。じくりとした疼きと連動するように、入り口がきゅんと震える。響河が何をしようとしているのか理解し、制止の言葉を発するより前に、ぬるりとしたものが触れる。
「ゃ、こうが、やめ……っひ、あ! ん……ッ」
声を上げても響河は意に介さず、念入りに襞に舌を這わせ、唾液を塗り込む。一度解されていたせいでそこはすぐに柔らかくなり、尖らせた舌先の侵入を許しくぷくぷと音を立てた。腰骨をぐいと掴まれて尻を更に高く上げられ、ひっくり返った爪先が頭の横に付きそうな程だ。そのまま親指で襞の周りを引っ張られて広げられ、舌は更に奥へ進んだ。指を入れられるよりも浅い所ばかりを何度も往き来され、僅かにもどかしさを感じ始める。はやくもっと奥まで、じくじくと熱く疼く場所を、他でもない響河に暴かれたい。
「こう、が……っもう、気が済んだろう、」
「…んー?……」
「ん、ぁあ…っ! ゃ、も、…ほしい……っ」
たのむ、と思わず懇願すると響河は目を丸くしようやく顔を上げた。──クソ、と誰にともなく呟くと、頭を擡げていた自身の陰茎を手で数度扱き、そのまま私の後孔へぬるりと擦り付けた。その上を小刻みに往復されればぞわぞわとした快感が背筋を這い上がる。響河は立ち膝になった太腿の上で私の腰を支えるようにすると、また膝裏を掴む。ぬるついた先走りが塗り込められたのを確認すると、そのままぐぽりと先端が押し込められた。
「ぁ、あ…あ……!ッは、ぁ…」
膝裏を掴んだ手に体重をかけながら覆い被さるように腰を押し進められれば、ずりずりと内壁を抉じ開けながら響河の熱が奥まで入り込んでくる。まるで串刺しにされるような感覚に、僅かな恐怖を含んだ愉悦が齎される。待ち望んだ熱をようやく与えられ、身体の内側全てが歓喜に震えた。下生えが肌に当たる感触がし、響河の陰茎が全て収まったことを知る。響河が中に馴染ませるように何度か小刻みに腰を揺らすと、内壁がきゅうとうねり響河に吸い付き奥へ奥へと引き込む。また体重をかけ抉じ開けられると、腰が痙攣するようにがくがくと戦慄き爪先が大きく跳ねた。
「ふ、ぁあ、あ……っい、く、ッア、だめ……ひ、あ……っ、!」
「っ……!」
激しく動かれたわけでもないのに達してしまい、思わず顔を覆う。未だひくひくと痙攣する身体はもはや響河に支えられていないと崩れ落ちて溶けてしまいそうだ。不規則に上がる呼吸を何とか宥めようとするも、中に収まっている響河の陰茎は自分以上に熱く、その形をありありと感じさせられた。
私が絶頂の余韻に身体を震わせている間も響河は息を詰めじっとしていたが、不意に両手で腰骨を強く掴み、ゆっくりと腰を引いた。
「……ぁ…こうが……?」
「村正、………ごめん」
呟かれた言葉の意味を一瞬遅れて理解する。引き抜かれた陰茎は先端が抜けるぎりぎりの所で止まっている。腰を掴む響河の手に力が入り、張り出した雁首がみしりと襞を拡げる。──来る、と思った時には、制止の言葉を発するにはもう遅すぎた。
「は……待っ…、!…ひ……〜〜ッ!?」
「…、はぁッ……村正…っ」
肉を掻き分け一気に奥まで貫かれ、ばちゅんと肉のぶつかる音がする。あまりの衝撃に視界がちかちかと瞬き、喉が反らされる。しかしその抽送が一度で終わる筈はなく、再び陰茎がずりずりと後退する。待ってほしいと言いたいが開きっぱなしの口からは意味のない母音と犬のような息が出るばかりで言葉にならない。また一気に押し込まれ、ごつんと奥を叩かれる。もうずっと中は痙攣しっぱなしで、自分がどうなっているのかわからない。がくがくと揺れる脚がひとりでに暴れるが、がっちりと腰を掴んでいる響河はものともしない。三回、四回と同じ動きで奥を暴かれ、徐々にスピードが上がっていく。中を往き来するたび前立腺にカリがひっかかり、浅い所も深い所もひっきりなしに快楽を流し込まれる。
「あ、ぐ、ぁ……っこ、が、もう…ぃ、っあ!ぁ…っイッて、いってぅ、あ……ッ!」
ぼやけた視界に、腹の上で力なく震える自身の陰茎からとぷりと、白濁したものが零れるのが見えた。響河に奥を叩かれるたび、まるで押し出されるかのように断続的にこぽり、こぽりと流れ出る。後ろだけで射精してしまったのだと、頭の端で理解する。響河が抽送を続けながら、恍惚とした表情でそこに手を伸ばし、指先でなぞる。
「、ッひ、! ぁ、やだ、ゃ……ぁ、あ、ん……っ!」
今日初めて直接そこへ与えられる刺激に、頭の中はもはや思考を成し得ない。軽く握ってゆっくりと扱かれると、まるで牛の乳搾りのように精液が吐き出される。かわいい、と響河が呟いた気がした。触れ合っている場所はどんどん熱く泥濘んでいき、私と響河の境界もよく判らなくなってきた頃、中で響河の陰茎がびくりと波打って膨らむ。やがて響河の顔が僅かに歪み、むらまさ、と名前を呼ばれる。
「はぁッ、あ……っもう、出る、っ……!」
「ぁ、こうが、…こうが……っ!──……」
一際熱いものが最奥に叩きつけられ、じわりと中で熱が広がる。射精する間も腰をぐっぐっと小刻みに突き出され、まるで奥に精液を塗り込めているようだ。全身にびりびりと駆け巡る愉悦を受け止めきれず、必死に響河の名前を呼ぶ。全て出し切った響河は深く長い息を吐き出すと、ずるりと陰茎を引き出した。そのまま私に覆い被さり私の身体を掻き抱き、二人して倒れるように柔らかなシーツの中に体重を任せた。私の身体は未だに余韻でひくひくと震え、響河がそれを宥めるように撫で、濡れた眦に唇を落とした。
「……もう他の誰にも、触らせたりしない」
「、ん……」
響河は自誓するように呟き、腕に力を込めた。私は響河に身体を預け、胸の内側からじんわりと広がりつつある熱に、瞼を閉じて浸った。
それから一週間ほど、私の身体は依然として過敏なままで、生活や仕事をする上で大いに支障を来し悩まされるのだった。
20180827
エロマッサージAVって良いよね。社長秘書の村正は第三者の目とかを感じてゾクゾクしちゃうタイプのドエムなので危なかった。
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